命令型からチーム型組織へ. 「TEAM OF TEAMS」書評

TEAM OF TEAMS書評。予想が難しいテロ組織に対応するためには、命令型では組織の動きが遅すぎる。情報・意識共通と権限移譲でチーム型組織への変革に取り組んだ様子が書かれています。

KauzmichiShirai

情報・意識共有と権限移譲で組織を変革

本書は、アメリカ特殊部隊がイラクでテロ組織アルカイダに苦戦したところから始まります。
組織の問題を分析し、組織を改革していく内容が書かれています。
筆者は、当時の特任部隊司令官のスタンリー・マクリスタル氏。
急速に変わる状況に苦戦する内容は、企業の組織リーダーに重なるものを感じました。
テロ組織は複雑で予測するのが難しい相手であり、従来の命令型組織では対応が難しいです。
状況に対応するために、チーム型組織へと変革を行います。
チーム型組織の特徴は、 「徹底した情報と意識の共有」 「大胆な権限移譲」です。
これを行うことで、テロ組織に対して、スピード感を持って柔軟に対応できる組織になります。
筆者は、組織をチーム型へ変革し、その文化を維持するために、チェスのように細かい命令を下すスタイルから組織を育てる菜園スタイルに自分の役割を再定義しました。

アルカイダとの戦いは予想のつかない入り組んだ事態で、目標が変化していきます。
これは現代のビジネス環境にも通ずるものがあり、この特任部隊の組織改革から学ぶことは多くあると感じました。

従来の命令型組織の問題

2004年、我々は一滴の油も無駄にしない時計仕掛けの急襲計画を立てたが、それはマネジメントのマジノ線だったと言っていい。精密に組み立てられた手順と計画は極めて効率的だった。しかし、それは必要条件を満たしていたが十分条件ではなかった。

命令型組織は効率的です。
情報を上層部に集め、必要な情報だけを各担当者に渡し、指示をする。
情報共有の時間を組織全体で見れば節約できます。
そして各担当者は自分の仕事に集中できます。
しかし、計画外のことに対応するのが難しいです。
また、縦割り組織なので、組織間の意思疎通が難しくなり、これがスピードを落とす原因にもなってしまいます。
アフガニスタンでは、レンジャー部隊と情報分析管の組織間の溝が大きくなり、タイミングよく計画を修正・実行するのが難しかったそうです。
結果、テロを防ぐことができなかったり、ターゲットの容疑者を取り逃がすことが起きてしまいました。
本書では、この問題を、軍だけでなく、GMやELDO(欧州ロケット開発機構)も抱えていた問題だと指摘しています。
GMは重要な問題が部署を超えて共有されず、問題が放置され、2014年に大規模リコールに直面してしまいます。
ELDOは、各国の担当パーツの結合部分で不具合が起き、NASAのようにロケットを飛ばすことができませんでした。

チーム型組織へ変革

徹底した情報と意識の共有

我々は「知識は力なり」という古い格言を信じて、その力を独占せずに思い切って拡散した。情報とそれに伴う力の価値は、共有すればより大きくなると信じて

テロとの戦いに勝つために、従来の軍の組織論を否定し、新しい組織文化を築いていきます。
私の経験でも、組織では効率化は、基本的には正義です。
それを否定して、数千人の組織を改革していくのはすごいことだと思いました。
チーム型組織になるために行ったのが、情報共有です。

毎日行われる2時間もの会議に、7000人が参加するようになった。一部の経営理論家にとっては非効率性の悪夢に思えるかもしれないが、O&I(で共有される情報の内容があまりに濃くて時宜を得ており、しかも戦いの核心に触れているため、誰一人欠席しようと思わなかった

素早く判断していくために、広く情報共有していくことの重要性が丁寧に書かれています。
情報共有として、毎日情報共有ミーティングに7000人参加するのには、驚きました。

世界中の参加者の理解も深まった。最も重要なのは、参加者全員が問題解決の過程をリアルタイムで見られて、しかも上層部の視点を理解できるようになることだ。その結果、参加者は自身が抱える同様の問題を、さらなる指導や説明なしに解決する術と自信を身につける。何千人もがこの毎日の議論に耳を傾けると、我々上層部に対する彼らからの説明や許可を求める声が減り、驚くほどの時間の節約につながった。

リアルタイムな情報共有のおかげで、結果としては、時間の効率化につながったと筆者は述べています。

軍という機密組織での情報共有は、情報漏洩のリスクがあります。
しかし、筆者は損失の可能性よりも有益性のほうがはるかに高いと考え、情報共有を推進します。 実際、特任部隊では深刻な情報漏洩はなかったそうです。
そして、今まで情報共有に慣れていない組織を変革するための合い言葉は 「違法ではないかと不安になるまで、情報を共有しよう」だったそうです。 かなりの決断だったと思います。

大胆な権限委譲

(夜中に判断を求められることについて)自分にどれだけ価値があるのかと疑問を持ち始めた。というのも、私が判断しなければならないのは、前の晩にずっと追いかけていた標的についてではなく、その場で説明される状況以上のことは知らなかったからだ。

私は、特別なことがない限り自分が介入してもさして意味はないことに気づき、やり方を変えた。私が空爆などを決める際の思考の筋道を司令部全体に伝え、自分たちで判断するよう命じたのだ。誰の判断であれ最終的な責任は私にあり、部下たちの結論も私とほとんど変わらなかったがそれでも、こうすれば必要な行動をとる権限をチームに与えられる。

状況や目標の変化が激しい場合、上層部は持っている情報が役に立たず、現場の情報がはるかに役立つことがあります。
これに近いこととして、エンジニアリングにおいて、組織にとって新しい技術領域の場合、マネージャーよりもプレイヤーのほうが詳しいということがあります。
マネージャーも学んでいく必要はありますが、本当に細部まで分かっているのは開発と向き合っているエンジニアだと思います。
そうしたときに、マネージャーが全部理解してから、あらゆる決断をしていくのは、マネージャーにとってもプレイヤーにとってもよくないことだと思います。

ただ権限移譲するだけでは成功できなかったと筆者は考えています。
権限移譲が成功できたのは、前項に書いた情報・意識の共有化があり、組織メンバーに全体像の理解があったからだそうです。

チェスから菜園主へ

上に立つ者の役割は、糸を引いて人形を操ることではなくなり、共感によって文化を創造することになったのである。

一人のリーダーが状況を判断し、部隊をチェスの駒のように動かすのが従来の軍の組織でした。
そして、筆者は、チェスの指し手として訓練を受けてきました。
しかし、それでは素早い敵に対応できないことを痛感し、自分のスタイルを変えます。
組織を育て、構造や手続き、そして組織の文化を改善し、それを維持していくことに集中します
それはチェスから菜園作りに似ていると表現しています。

テクノロジーの進化で、リーダーに集まる情報の質・量は大きく向上しました。
ですが、一人の人間が考えられる限界があります。
相手も同じテクノロジーの恩恵を受けているときに、一人のリーダーの決断を待っているようでは時間がかかり過ぎてしまうのです。  

リーダーとしてのマインドを変える

問題を直視し、今までの自分の考えを捨てて、マインドを変えた筆者には本当にすごいと思います。
軍のエリートとして、命令型組織で出世した彼が新しいリーダー像に切り替えたことが組織変革のキーポイントだったはずです。
本書でも、自分の考えを変えていくことへの筆者の中の葛藤が書かれています。
それを読むと、新しいマインドへの抵抗を乗り越えたは尊敬に値すると感じました。